
図3:あるサンプル値制御系のステップ応答ある制御対象に対し、K(s)をPI補償器として定め、 K(s)をTustin変換(双一次変換)で近似して実装した系のステップ応答。
青がK(s)を用いた、設計者が意図する系の応答。緑はサンプル周期が小さいとき(h=0.1)の応答で、設計者が意図する系の応答に十分近いといえる。しかし、サンプル周期が大きく(h=0.5)なると、系の応答(赤)は設計者が意図するものとは異なる振動的なものになり、さらにサンプル周期が大きく (h=1.0)なると、系は不安定になってしまう(水色)。
安定性を確保する一つの方法として、サンプル値制御系を離散時間システムとみなす方法があります(図4)。
この場合、離散化プラントは離散時間システムであり、系全体を離散時間システムとして扱うことができます。また、この離散時間システムを安定化するKd[z]に対してサンプル値制御系設計は安定となります(必要十分条件)。しかし、離散化に基づくサンプル値制御系設計は、必ずしも望ましい性能を与えるわけではありません。 ydがyの近似となっていることを期待すれば、離散化システムを安定化し、初期状態に対して∥yd∥2(ydのエネルギー)を最小化することは、妥当なKd[z]の設計法といえます。そのようなKd[z]は、離散時間制御理論を用いて求めることができます。ある制御対象に対してKd[z]を計算し、 ydをプロットしたものが図5の赤い点です。実際にydは非常に小さくなっていますが、制御対象の応答y(緑)は非常に振動的です。つまり、ydはyのよい近似となるとは限らず、サンプル値制御系の解析、設計においてはサンプル点間応答を評価する必要があることがわかります。

図4:サンプル値制御系を離散時間システムとみなした図
望ましい性能を与えるサンプル値制御系を設計するためには、サンプル値制御系を安定化し、 ∥y∥2(yのエネルギー)を最小化する必要があります。Kd[z]は望ましい応答を与えることが期待されるわけですが、実際にそのようなKd[z]を用いた応答は、図5の青のグラフになり、望ましい応答であることが確認できます。このようなサンプル点間応答を近似なくあつかう解析、設計のための理論が、サンプル値制御理論です。

図5:ある制御対象における応答y、yd 。